皆様からお時間を頂きありがとうございます。
意 見 陳 述 をさせていただきます。
沢田被告、緒方被告、齋藤被告、あなたたち、なぜ、主人に暴行し、拉致し、死に至らしめたのですか？主人が、あなたたちに、いったい何をしたというのですか？
齋藤被告が、引き倒された主人に馬乗りになり、腹や背中を何度もげんこつで殴り、緒方被告がレンタカーに引きずり込み、沢田被告が、執拗(しつよう)に、執拗(しつよう)に、顔を、口を、ガムテープでグルグル巻きにし、全員で布団袋に包んだ上から布団で巻き上げ、縛り、主人は全身を圧迫されて、呼吸ができなくなって、死んだのです。あなたたちが、その手で、実行犯として行った暴行によって、主人は苦しんで、苦しんで死んで行ったのです。
沢田被告、緒方被告、齋藤被告、あなたたちが、主人を殺したのです。物事を何も考えないあなたたちが、金のためならなんでもやるあなたたちが、他人の生き死になどどうでもいいと思っているあなたたちが、近藤浩を死に至らしめたのです。
「その人を殺すとは聞いていなかったから」「その人が死んだ時、その場にいなかったから」そんな理由で、見ず知らずの人間を、１０万円のアルバイトで殺した彼らの行為が、「殺人罪」にならないことが、私には不思議でなりません。
我が家の前にある「こうさぎ公園」は、私の父が「子どもたちのために」と用地取得に尽力してできた小さな広場です。公園ができてからは毎日多くの子どもたちが賑やかに遊び、お年寄りが夕涼みをする小さな地域の大切な空間でした。うちの子どもたちも,そこでさまざまな年齢の子どもと遊びながら育ちました。主人、近藤浩は、休日に時間がとれれば、その公園で自分の子どもたちを見守りながら、よそのお子さんに自転車の乗り方を教えたりしていました。
危険な違法駐車を取り締まるため、駐車違反の看板も立てていただきました。町会でも、PTAでもパトロールをして防犯に備えていました。ご近所でも声をかけ合い、助け合って暮らしてきました。その中心に我が家、近藤家はありました。
その公園の前に、昨年11月２4日、血も涙もない５人の若者がやってきて、主人に暴行し、誘拐し、殺し、私たちの生活すべてを壊したのです。
主人の拉致犯行現場は我が家の真ん前、子どもと主人の笑顔の思い出に溢れる場所でした。
事件に違いないと警察が捜査を始めた11月27日から、我が家には刑事さんが張り込み、電話には逆探知機がつけられました。また、ご近所一軒一軒に警察官による聞き込みが始まりました。誘拐事件を想定し、主人の命を気遣い、「近藤さんのご主人が行方不明なのです」とは言えません。仕方なく、「強盗団がいるので、喧嘩があったようで・・・」と言いながらの聞き込みでした。
裏のおばあさんの家では新たに鍵を取り付け、窓ガラスには鉄格子をいれました。そのお隣の奥さんは「警察にも行ったけれど何も教えてくれない。近藤さんなら何か知っているかと思って。何があったの？怖いわ」と血相を変えて来られました。
主人の両親も田舎から駆けつけました。「浩は優しい子だから、一人でいなくなることなんか考えられない。どこかの病院に意識をなくして入っているかもしれないから、東京中の病院を回って歩こうと思う」高齢の両親はそう言って取る物も取りあえず駆けつけて来たのです。
「何かあったのですか？」とご近所に尋ねられても、まさか主人が行方不明とは言えず「前の道で夜中にけんかがあったみたいです。でも大丈夫だから」と私が皆さんをなだめて来ました。どんな気持ちだったかわかりますか？突然主人が行方不明になったのに地域の皆さんを不安にはさせられない、迷惑はかけられないのです。
それはうちの子どもたちも同じでした。友達やおかあさんたちに「何かあったの？」と聞かれても、子どもは「お父さんがいなくなっちゃたの！」とは言えず、顔で笑いながら、ひたすらお父さんの無事を信じて帰りを待っていました。どんなにつらかったか、悲しかったか、他人の命など何とも思っていないあなたたちにはこの悲しさなどわからないのでしょう。
警察は地道な調査を積み重ね、本当によく犯人全員を逮捕してくれました。そして、主犯酒井の供述から、近藤浩は山中に埋められたことが判明しました。
12月24日主人は遺体で見つかりました。子どもたちが楽しみにしていたクリスマスイブです。いつもなら、お父さんとクリスマスケーキを奪い合って食べ、プレゼントをもらえる日に「父の死」という知らせが届いたのです。警察からの電話を受け、子どもたちに「お父さん死んじゃった」と言うと、１０歳の息子は「ぼく、お父さんが死んだことは、友達に話しても大丈夫かな」と言いました。１ヶ月間、お父さんがいなくなったことを誰にも話せず、どんなに小さな胸を痛めて、辛い思いをしてきたことか、涙が出てとまりませんでした。あなたたち人間の命の大切さが理解できない人間たちには、こういう心の痛みは理解できないのでしょうね。
沢田被告、緒方被告、齋藤被告、あなたたちは、警察に逮捕されるまでのこの１ヶ月間何をしていたのですか。何食わぬ顔で、拉致事件がバレる事はないと思って、報酬の１０万円を使って、愉快に楽しく暮らしていたのですね。誰一人「大変なことをしてしまった」と自首するでもなく、笑いながら過ごしていたのですね。
私たちは、この日から毎日、毎日泣きました。どうしてあんなにいい人が殺されなくてはならないのか？家の前まで帰って来たのに、どうして助けてあげられなかったのか？泣いて、泣いて暮らしました。
今、現在も毎日の会話は「お父さん、まだ戻ってこないね。本当に帰ってこないのかな？」と子どもたちは、まだ、どこかに希望を持ちたいと思っているのです。主人を返してください。子どもたちに、大好きな、一人きりのお父さんを返してください。
事件が明るみに出た次の日からたくさんの方が我が家を訪れ、皆が「ごめんね。ごめんね。助けてあげられなくてごめんね」と目を真っ赤に泣きはらして謝ってくださるのです。皆近藤浩が好きで、私たちの家族が好きでいてくれるやさしい人たちです。突然、５人もの見知らぬ若者に襲われ、誘拐されるのを、誰が助けることができたというのでしょう。
事件当夜、道路で争っている音を聞いた近所の若い女性は,お母様と我が家に謝りに来て、玄関で泣き崩れてしまいました。「ごめんなさい。私があの時出て行っていれば、子どもたちのお父さんを助けられたかもしれないのに・・・」と自分を責めて、責めて、泣いて、泣いて,我が家の玄関で動けなくなってしまいました。私はどうすることもできずに「こちらこそごめんね。つらい思いをさせちゃって。あなたは何も悪くないのよ」と言って元気付けるしかありませんでした。彼女にもお父さんがいません。きっと父親を失った子どもたちの寂しさ、悲しさが誰よりもわかるのでしょう。彼女はおそらくこの事件をトラウマとして一生引きずってしまうでしょう。
我が家とその周りの人たちを恐怖と絶望のどん底に突き落としたあなたたち。沢田被告、緒方被告、齋藤被告を私は絶対に許しません。
主人のお葬式には700人を超える方がいらしてくださいました。皆、泣いて、泣いて悲しんでくださいました。主人の友人、取引先の方、九州から北海道まで全国から大勢の方がいらしてくださいました。１２月としては珍しく東京に大雪が降る日でした。お焼香の列があまりに長いので、並びきれず途中で帰られた方もいらっしゃるほどです。
ある議員さんは後で、「 私は今までにたくさんのお葬式にでたことがあるけれど、あんなに皆が泣いているお葬式は初めてです。悲しすぎます」と言われました。子どもの友人たちも大勢きてくれました。不登校の中学生も来てくれました。皆、自分たちの平和だった町に、残酷で血も涙もない人間がやってきて、優しかった主人を連れ去ったことに怒り、泣いてくれました。
今でもその子どもたちは私に会うと「犯人、死刑になった？」と声をかけてくれます。「絶対死刑だよね。人を殺したらいけないんだよね。」と大きな声で言います。
しかし、この裁判をすべて傍聴してみて、沢田被告、緒方被告、齋藤被告、誰一人、「悪い事をした」と思っていないことに私は愕然としました。
沢田被告、緒方被告、齋藤被告は、自分たちが直接主人に手を下した実行犯でありながら、子どもたちでもわかる、人を暴力で連れ去り、監禁し、見殺しにした、人間として決して許されない行為に対して、「頼まれたから」「危ないと思ったけど断れなくて」「バレるとまずい犯罪ではあるけれど、たいした罪ではないと考えた」とのんきなことを平気で言って全く反省の様子がないのです。
反省どころか、今この時点で、すでに刑期を終えた後の、自分たちの生活を夢見ているのです。
沢田被告は、自分が犯罪に加わることを頼んだ仲間には少しは申し訳なかったと考え、緒方被告と齋藤被告は、自分が捕まって迷惑をかけた家族に対しては、申し訳ないことをしたと少し反省しているようですが、死んでしまった近藤浩、もともと「見知らぬ人間」であった主人に対しては、誰一人、何の謝罪の気持ちも持たないように見えます。
主人を返してください。
私たちの生活、私たちの幸せの全てを返してください。
１１月２４日以前の生活を、私たちに戻してください。
齋藤被告、沢田被告、緒方被告、あなたたちはいいですよね。こんな大人になっても、息子の不祥事に駆けつけ、泣いてくれる父親がいる。うちの長男は１０歳であなたたちに父親を奪われました。これから長男に何が起こっても、叱ったり、泣いたりしてくれる父親はいないのです。
長男に「お父さんを殺した犯人たちは逮捕されて刑務所に入るんだよ」と話したとき、彼は「それ、どういうこと？お父さんみたいに火で焼かれちゃうってこと？」と言いました。 できることなら本当に、そうしてもらいたい。近藤浩はあなたたちの顔も名前も知らずに死んで行ったのです。無念さを伝えたくても、誰を恨んでよいのかわかりません。「あなたを拉致して見殺しにしたのは僕です」と名乗り出て、向こうで近藤浩にひれ伏して謝ってもらいたい。
クリスマスの夜、お棺に入れられて帰って来た、物言わぬお父さんに、長男は「お父さん、淋しいかな」「寒くないかな？」何度も、何度も話しかけていました。お棺の中の二度と微笑んでくれないお父さんの顔をいつまでもじっと見つめていました。だから火葬場から骨だけになって出て来たお父さんを見た時、彼は大きなショックを受けた様子でした。「あ?あ、お父さん骨になっちゃってさ」時々、今でも小さく声にします。
ある日、優しく笑っているお父さんの遺影をじっと見つめて、長男は言いました。「お父さんぼくのこと、どう思っていたかな」「我がまま言って怒られたことがあるから、ちょっと悪い子だと思ってなかったかな」「ぼくは小さくて、まだよくわからなかったから、泣いてお父さんを困らせて、いけない子だったな」「お父さん、死ぬ時、ぼくの事どう思っていたかな」１０歳の長男が、あの時お父さんに怒られるようなことをして悪かった、泣いて困らせて悪い事をした、と自分の人生を振り返って反省しているのです。自分とお父さんの絆(きずな)が断ち切られた瞬間、お父さんは自分をどう思っていただろう、「いい子だった」と思ってくれていただろうかと心配しているのです。「お父さん大好き」と飛びつけば、何も言わず笑顔で抱きしめてくれたお父さんがいなくなって、不安で、不安で仕方がないのです。
１０歳の彼には、大好きなお父さんが、そばにいてくれるだけでよかったのです。お父さんが、笑って、彼をしっかり包んでいてくれるだけで幸せだったのです。
息子の愛する父親を、彼に返してください。
主人はいい人でした。
沢田被告、緒方被告、齋藤被告が、おそらくこれまで会った事もないようないい人でした。もし、あなたたちが夜中に彼を拉致することを目的とせず、普通の社会 で主人と知り合っていたら、こんな良い人がいたのかと思ったはずです。
私自身毎日多くの人間に会いますが、近藤浩以上に「誠実な」人間を知りません。近藤浩以上に「優しい」人間を知りません。
主人は優しい人でした。
道で歩けなくなって、しゃがみ込んでいたおばあさんを、自分の背中に背負って彼女の自宅まで連れて行ってあげて、感謝される人でした。
自分の実家に帰る時、本当は一刻も早く両親や兄弟に会いたいのに、到着が夜遅くなると「お母さんは朝早くから起きて疲れているんだから、これからご飯の支度をさせちゃ悪いから、僕たちは何でもいいから食事を済ませてから行こう」と言う人でした。
たまの休み、テレビでサッカーの試合を見ていた時、ゆっくり観戦したいだろう時間に、一緒にテレビを見ていたサッカーのルールも知らずチンプンカンプンな私の母にフォーメーションを紙に書いて説明してあげるような人でした。
どんなに自分が忙しくても、「家事、子育て、介護、それに仕事を一人でこなしている小枝ちゃんが一番大変だよ」と私を労ってくれる人でした。
主人は本当に一生懸命働きました。
会社の同僚、主人が仕事で関わった方々、近所の方々、誰もが「あんなに働く人は見た事がない」と感心していたほどです。
齋藤被告のお父さん、沢田被告のお父さん、それぞれ仕事が忙しくて息子と話す機会がほとんどなかったとおっしゃいました。 夫、近藤浩も、おそらくあなたがた以上に忙しく真面目に働いていました。酒井被告による粉飾決算や商権持ち逃げにより、社員をリストラし、事業所を閉じなくてはならない仕事をさせられた時など、林業機器を扱っている彼の現場は、ほとんど山の中ですから、朝４時に起きて車で出かけ、夜中に帰って来ました。ケト社との交渉に行くのも、フィンランドまで機内１泊の２日で出かけました。あなた方の息子に暴行され、拉致される前日「勤労感謝の日」にも、韓国で商談をまとめ、夜中に帰宅しました。忙しくて、忙しくて、子どもと遊ぶ時間はほとんどありませんでした。それでも、帰宅したお父さんの背中を二人の子どもは取り合いました。「お父さんが一番好き」子どもたちはいつもそう言っていました。どんなに忙しくても、子どもと対するときは、まっすぐ愛情を惜しみなく注ぐ人でした。
あまりにも忙しく家にいない主人に、かつて私が文句をいったことがあります。その時、主人は言いました。「こつこつ真面目に誰よりも努力をして、お金を稼ぐことを教えるのが教育だろう。楽して稼げるなんて親が教えたら子どもは努力をしないだろう。お金はあったり、なくなったりするけれど、努力することを覚えれば、ちゃんと生きていけるんだ。親ができる教育は、真面目に努力することを子どもたちに見せることだよ」
その言葉どおり子どもたちの手本になるように、真面目に、何事にも真剣に生きていた主人が、沢田被告や齋藤被告や緒方被告のような、人の命の重さも理解できない、金がもらえればなんでもする若者に殺されてしまうなんて、あまりにもむごすぎます。
３月２日、この法廷で初めての公判が開かれました。中学１年生の長女は、学校を早退して、傍聴席に座りました。彼女は主人に似てとても真面目な性格で、小学校６年間一日も学校を休んだ事はありません。「学校早退するのは嫌だけれど、お父さんを殺した犯人の顔を見たい」と言って生まれて初めて法廷に来たのです。
その日、齋藤被告の陳述がありました。長女は「お母さん、あの人、ウソついているね」傍聴席で泣き崩れる私を支えながら、唇を噛み締めて言いました。「顔中ぐるぐる巻きにして、息ができなくなったら、人間死んじゃうなんて子どもだって知ってるのに、死ぬとは思わなかったなんて平気な顔してウソ言ってるね」
裁判所から帰って、長女は、怒りに震えて泣きました。
「裁判ってウソを言ってもいいところなの？５人もの人間で、１人の人間に暴力を振るって、拉致して顔も身体もぐるぐる巻きにしても、死ぬとは思わなかったなんて平気で言って、大うそつきだよ！幼稚園の子どもだって、息ができなければ人が死んでしまうことがわかるのに、こんなこと真面目な顔で聞いているあの弁護士さんもおかしいよ。裁判所って国の最高機関なんでしょ。大人が、ウソを付き合う場所なの？これじゃ、「嫌な奴がいたら、大勢で暴行して、死ぬ前に逃げて、捕まったら、まさか死ぬと思わなかったって裁判で言えばいい」と言ってるのと同じだよ。大人の社会が信じられなくなったよ。
あの、齋藤って人、早稲田学院出て早稲田大学行ったんだよね。早稲田学院って言ったら、あたしたちの中でも頭のいい男の子たちの憧れの学校だよ。その学校はいるために、みんな一生懸命勉強してるんだよ。そんな学校出て、顔も身体もぐるぐる巻きにしたけど、鼻の穴で息の音がしたから大丈夫だと思った、なんて本当に考えたとしたら、大バカだよ。人間じゃないよ。あの人、学校の先生になりたかったとか言ってたけど、なれなくてよかったとあたし思うよ。あんな人が先生になってたら、子どもがかわいそうだったよ。あんな人が、もし先生になってたら、いじめる子どもの側について、たくさんの子どもを泣かしたよ。子どもを殺したかもしれないよ。
なんで、何も悪くないお父さんが、あんなウソつきに殺されなくちゃならなかったの？お父さんが本当にかわいそうだよ。あたし、本当に悔しいよ」
最愛のお父さんの死を前にした時も、ぐっと涙をガマンンして、主人のお母さんや私を労り、励まそうとしてくれていた気丈(きじょう)な長女は、裁判から帰った日、声をあげて泣き続けました。
齋藤被告は、近藤浩を拉致誘拐する目的で集まった時、坂本に「これから、拉致する人はどういう人なのですか」と聞いたのですね。坂本の話に、「それじゃ、その人は何も悪くないじゃないですか」と言ったのですよね。それを認識した上で、齋藤被告は、倒れ込んだ近藤浩に馬乗りになって、腹や背中をげんこつで殴って、殴って、弱らせたのです。車に押し込んでからも、やはり馬乗りになってげんこつで殴り続けたのです。殴りながら、近藤浩に「静かにすれば、悪いようにしない」とウソを言って黙らせたのです。
これが人間として生きた感情を持つ人のすることですか？私には悪魔としか思えません。見も知らぬ人間、悪い人間ではなさそうだと判断された人間に対し、どうして、そんなひどい暴行が加えられるのですか。齋藤被告は、日常的に、知らない人間に、そういう暴行を加える可能性のある狂気を持った人間であるとしか考えられません。
主人は、近藤浩は身体の強い、元気な４０歳でした。齋藤被告に殴られなかったら、もっと抵抗できたはずです。
齋藤被告は、沢田被告の誘いに乗り、気軽に踏み出した犯罪が、想像以上に大掛かりな拉致事件になってしまったと自分で理解した時、「これからは警察に追われる身になりますね」と沢田と話したのですね。目の前で、近藤浩が苦しんで、苦しんで、「これで鼻が詰まったら死んでしまう」と分かっていながら、放置して、見捨てて、１０万円の報酬を受け取ったのです。そして実際に警察に追われる身になって、「あ?あ、みつかっちゃった」、「家族には悪い事したな」、そんな気持ちなのです。あなたにとっては、他人の命などどうでもよいものなのです。
１０万円で犯罪の手助けをするアルバイトに「はい、やります」と手を挙げて参加する、いざ動き出すと、誰よりも冷静で凶暴になる、そんなあなたが、このまま社会に出て来ることが、私には本当に怖いのです。
私は、齋藤被告を絶対に許しません。社会に出て来て欲しくありません。
この夏、齋藤被告のご両親から「謝罪します」と書かれた２通の「絵はがき」をいただきました。あなた方の息子に暴力を振るわれ、拉致され、主人を奪われた遺族に対し、「お元気そうでなによりです」「夫婦で出雲大社に来ました」そんなハガキ頂いて私が嬉しいとでも思いますか？あなた方は私の友達ではないのですから、やめてください。あなた方が、何の宗教を信仰しようが、どこにお参りに行こうが勝手ですが、それは、あくまでもあなた方、ご自身の救いでしかないことに気づいていらっしゃらないのでしょうか。
この裁判が始まる直前の２月２６日、齋藤被告のご両親も、他の被告家族と同じ時間に、我が家に「謝罪」にいらっしゃいました。主人が一生懸命働いて建てた我が家に、主人を殺した人間の家族を上げることはできません。お焼香もお断りしました。自分の息子が近藤浩を拉致する事を目的に、悪意を持って潜んでいた、まさにその公園で、私は、犯罪者のご家族皆さんにお会いしました。
その日、テレビ局のスタッフが、この殺人事件の取材のため、我が家を撮影していました。テレビ局は、１ヶ月間に渡って、主人が巻き込まれたあまりにもひどい犯罪事件を追跡調査していたのです。齋藤被告のお父さんは、カメラを見るなり、テレビ局スタッフに歩み寄り、「何をしているんだ！カメラやめろ！」と大声でどなりました。テレビ局のスタッフは、寒い中、長い時間をかけて追跡調査し、この殺人事件の事の重大さをマスコミで取り上げてくれていたのです。「謝罪」などと言って被害者の元に出向きながら、自分の息子は１０万円で犯罪を請け負い、結果的に人を殺してしまったことを棚にあげ、自分たちの身の保身だけを考え、一生懸命働いている若者を怒鳴りつける。怒鳴られるのはあなたの息子であり、あなた方ではあっても、真面目に仕事をしている若者ではありません。その姿勢に、私は、本当に驚きました。
齋藤被告のお父さんは、裁判が始まる前のこの段階で、すでに普通の社会に復帰した息子のことを話していらっしゃいました。「息子は仏門に入れて、自給自足で生きて行かせる」と泣いて土下座されましたが、まるで、息子が犯した犯罪が分かっていらっしゃらないのだと、私は思いました。犯罪者の道を、自分の意思で選んだ息子はもう大人です。親が、歩む道を強要できるような年齢ではないのです。自分の意思で、犯罪のアルバイトさえ断ることのできない人間です。親に強要された人生が嫌になったら、彼はまた犯罪を繰り返します。ご家族は社宅を出て引っ越しされ、犯罪者となった息子は仏門に入れて厄介払いし、自分たちはきれいさっぱり、何事もなかったように家族支え合って生きて行くという姿勢は、私には、全く利己的な親の顔に映りました。
私は、「どうして親が命の大切さを教えなかったのか。どうして、親が、金がなくても人間は生きていけることを教えなかったのか」と聞いたのです。「金にたよらない自立する力を身につけろ」などと言ってはいません。
齋藤被告のご両親、あなた方が巡礼の旅にでようが、写経しようが、それはそれで結構です。でも、それがあなた方の息子が主人を死に追いやったことへの謝罪になるなどと勘違いしないでいただきたい。あなた方の行いは、ご自分たちの満足でしかないのです。私たち遺族は、気持ちを逆撫でされる思いです。
緒方被告、あなたは、沢田被告から「ある人をある人のところに連れて行く仕事がある。１０万円出すらしい」と聞いた時から、それは「危ない仕事」で「犯罪になる」ことが分かっていたのです。なぜ、「そんな仕事したくない」と断れなかったのですか。
緒方被告とは関係ないことですが、坂本被告は、今回の犯罪の前に、「痴漢でっち上げ」工作(こうさく)をしていました。主犯の酒井が、近藤浩を「痴漢」に仕立て上げ、社会的立場を失墜させようと考えたものです。坂本被告が知り合いの女性に「痴漢の被害者役をやってくれないか。報酬出す」と相談した時、彼女は「なに、それ、そんなバカなこと出来ない」と断ったそうです。なんと勇気のある態度でしょう。あなたには、沢田被告の誘いが断れなかった。坂本被告と会って、「怪しい仕事だ」といぶかしさをつのらせながらも、断ろうとはしなかった。意志薄弱で何も考えられない人間です。そして、ちょうど今、仕事もないし、１０万円もらったらすごく嬉しいな、とのんきに犯罪に参加したのですね。
主人も私も、いつも自分の子どもたちにも、よその子どもたちにも、言い聞かせて来ました。「集団で1人の子をいじめるのは1番いけないことです。直接いじめなくても、その仲間にいれば同じようにいけないことです。こんなことはやめようと言うか、それができなければ自分だけでもいじめからぬけるか、誰か大人の人にいじめや暴力があることを教えてください」そう言って子どもたちを教育してきました。
「悪い事だとは知ってたけれど断れなかった」「途中で抜けるわけにはいかなかった」それを正当な理由だと自分に言い聞かせる。まさに、この子どものいじめの世界と同じです。それを、浦和高校という高い教育レベルの高校を出た若者が、あきらかに犯罪である事を理解しながら断らず、報酬を魅力だと考え、犯罪を手伝うことを引き受けたのです。
緒方被告、どうしてあなたは主人を助けてくれなかったのですか？近藤浩が顔も身体もガムテープでぐるぐる巻きにされ、鼻だけで苦しそうに息をしているのを見て、あなただけが、「こんなに縛られたら、息ができなくなって死んでしまう」とちゃんと判断していたのですよね。布団袋に包まれぐるぐる巻きにされ身動きできない近藤浩を、布団で巻くことは手伝っておきながら、その後、彼の顔にかかった部分の、布団を開いて、顔を出してくれたのですよね。鼻が詰まったら死んでしまうと心配してくれたのですよね。「命が危ない」と分かっていたのですよね。なぜ、助けてくれなかったのですか。
緒方被告、なぜ、坂本宅を出て、荻窪駅に行った時、警察に話してくれなかったのですか。緒方被告、沢田被告、齋藤被告が帰ってから２時間くらいは、主人は生きていたのです。その時警察に「大変なことをしてしまった」と自主してくれれば、近藤浩は助かったのです。冷静に近藤浩の呼吸を確認していた、あなただけが、主人を救うことができたのです。でも、あなたは助けてくれなかった。緒方被告が、近藤浩の息があることを気にしていたのは、「被害者が苦しんでかわいそうだ」「このままでは彼は死んでしまう」という人間的な感情からではなく、単に自分が「殺人罪」になる事への恐怖からだったのですか。
「命が危ない」と認識されながら、あなたに、放置された主人は、苦しんで、苦しんで、泣いて、泣いて、死んで行ったのです。 緒方被告、私はあなたを決して許しません。
緒方被告のご両親、あなた方は、手のかからない、努力しなくても賢い、自慢の息子に、命の重さを理解させる教育をされなかったのですか。友人の誘いを断って仲違いして一時嫌な思いをするより、人の命を救うことのほうが、何よりも大事であることを教えなかったのですか。マージャンやスロットなどのギャンブルで手近なお金を得ることは「普通ではない」ことで、それで一生生きて行けると思うなと教えなかったのですか。
最近、お嬢さんを亡くされたと話していらっしゃいましたが、緒方被告は、家族を失った痛みを一番身近に体験していたのではないのですか。家族が亡くなる痛みを知りながら、他人の家族に対しては何の感情も持たない、てっとり早く金が入ることが大事で、それが犯罪だろうと、人を傷つけようと、大した事ではないと考える、人間としての感情を持ち合わせていないのです。
今、世の中には、緒方被告、齋藤被告のような若者が大勢います。いわゆる「悪(わる)」ではなく、普通の顔をして生きている、これら意志薄弱で物事を考えない消極的「悪(わる)」たちは、根っからの「悪(わる)」に使われ、あまりにも簡単に犯罪者になる。
これ以上、若者の犯罪を増やさないためにも、彼らを法が許す限りの重い刑罰に処してください。
沢田被告、あなたは年に１?２回集まって飲む程度の友人である、坂本被告からの携帯メール「忘年会やりましょう」から始まった「怪しい仕事」を、金欲しさから、まるで飲み会の幹事でもするように簡単に引き受け、緒方、齋藤に犯罪アルバイトを手配したのです。緒方被告にも、齋藤被告にも「報酬１０万円」と最初に話しています。緒方や齋藤に「相手がヤクザじゃないから大丈夫」と話しながら、坂本には「自分の拉致された経験から、暴力を使っても、無理矢理連れ去らないと難しい」などと暴力的拉致の仕方を伝授までしているのです。
スタンガンを見ても、「生きている人間を入れる」と言われたスーツケースを見ても、「へーこんなの使うんだ」と何も考えず、その後は凶暴な人間性をむき出しにして、近藤浩に襲いかかったのです。
沢田被告、近藤浩があなたに何をしたと言うんですか？「野方駅はどっちですか」と言ったあなたの質問に、主人は答えてあげようとしただけですよね。沢田被告は、見も知らぬ人間だった近藤浩が、なぜそんなに憎かったのですか？引き倒され、すでに齋藤にさんざん殴られている近藤浩の顔を踏みつけ、車に引きずり込んだ時、主人にスタンガンを作動させたのですよね。すでにサルグツワされて声を出せない主人の顔に、後で、これでもかというほどガムテープを巻き付けたのですよね。あなたが近藤浩の顔に巻いたガムテープの長さは、全部で１１メートルもあったと聞きました。これが人間のすることですか？沢田被告は、冷酷で凶暴な、まさに悪魔そのものです。
近藤浩を拉致して、顔も身体もガムテープでぐるぐる巻きにして、布団袋の上から布団で巻いた、一(ひと)仕事が終わって、沢田被告は帰る前に坂本被告を呼び出して、「大丈夫か？」と聞いたのです。「大丈夫か？」とは「これでは、この人間が死んでしまうのではないか？」という意味ではなかったのですか？それとも、自分たちの立場が「殺人罪にならないか？」という不安だったのですか。
７月のある夜１０時頃、知らない男性から「会って話したい」と私に電話がありました。時間も遅いので、断ると、彼は「裁判のことで、どうしても話しておきたいことがある」と言うのです。彼は我が家にやってきました。彼は沢田被告の友人を良く知る人間だと名乗りました。沢田の友人は、近藤浩拉致監禁して得た報酬で、仲間とどんちゃん騒ぎをしながら大喜びしている沢田と一緒にいたそうです。「見つからなくて、うまくいった。本当に良かった」と喜んで、その報酬で彼女にカシミヤの服をプレゼントしたそうです。
この尋ねて来た若者は、かつて近藤浩と仕事で出会い、自分のミスで大変な損害を出すことになるところを、近藤浩に救われたのだそうです。自分は昔から不良だったから、やってもいない盗みも「お前だろう」といつも責められて生きて来た。そんな自分に対し、近藤さんは、「君は悪くないよ。大丈夫だから」と言って、何時間にもわたる面倒な手続きを嫌な顔もせずにしてくれた。「自分が今生きているのはあの時近藤さんが助けてくれたからです」と言って涙をためていました。 主人は、立場の弱い者に本当に優しい人でした。たとえ仕事ができなくても「仕方ないよ。人間には個人差があるんだから」と言って、真面目に取り組む人間を応援する人でした。
その人は、「沢田は本当に汚い。近藤さんを殺してしまったことだって、百も承知だった。ホームページで読みましたが、裁判の内容はうそばかりです。自分はチンピラだから何を言っても、世間は信用してくれない。だから、奥さんが真実を話してください」と言って泣きながら帰って行きました。
主人が行方不明になり、せめて身代金の要求でもあれば、と祈る気持ちで、私たち家族が息もできないような張りつめた思いで過ごしていた１ヶ月の間、ご近所の皆さんが、いつ、だれに襲われるのではないかと、不安で、不安で眠れずに過ごしていた夜、沢田たちは、この犯罪がうまくいったことを「自慢して」笑って酒を飲んで過ごしていたのです。彼らの中には「悪い事をした」という気持ちも、「ひとの命を考える」ことも全くなかったのです。
私は、沢田被告を決して許しません。
沢田被告のご両親も２月２６日、我が家に「謝罪」にいらっしゃいました。ご両親は「息子をこの手で殺して、私たちも死んでしまいたい」と泣いていらっしゃいました。私は、死ぬよりつらい謝罪の日々があると思います。こんなことになる前に、なぜ、人の命が大事であること、真面目にお金を稼ぐ生活の大切さを息子に教えなかったのでしょうか？ その息子はお金をもらって見も知らぬ人間を暴行し、拉致し、死んでしまうと分かっている人間を放置することを、「仕事」として自分の意思で選んだのです。おもしろおかしく仲間を集めたのです。仕事が終わったあと、その報酬を手に、仲間とどんちゃん騒ぎをしていたのです。人間の命の大切さを考える頭など持ち合わせていないのです。
沢田被告のお母さんは、お茶屋さんをしていると、先日の公判で聞きました。我が家の近くのお茶屋さんは、そこで、美味しいお茶を頂きながら情報交換をする、地域の人たちの大切なサロンになっています。沢田被告のご実家のお茶屋さんでは、子どもの話など出ないのでしょうか。東京に行った息子が何をしようと、地元にはその情報は届かないから安心なのですか。
もし、刑務所から出て来て仕事がなかったら、こんな危険な感覚を持った人間は、また犯罪を繰り返します。怖いのです。私は彼の凶暴性が怖くて仕方ないのです。
私は沢田被告を決して許しません。二度と世の中に出て来てほしくありません。
齋藤被告、沢田被告、緒方被告たちによって、これまでご近所で力を合わせて築いて来た地域の安全は壊されてしまいました。ご近所の皆さんが、「いつ、また彼らがやって来るか」と怖がっているのです。拉致現場となった「こうさぎ公園」に今は子どもたちの姿はなく、皆さん足早に通り過ぎて行きます。明るく住みやすかった町に一度もたらされた恐怖と不安は消えることがないのです。
主人が遺体で見つかった後も、警察の方は、雨の日も、風の日も、毎晩、我が家の廻りをパトロールしてくださっています。あなたたちが現れないよう、地域を守ってくれているのです。わかりますか？それはすべて私たちの税金から出されているのです。
被告のご家族が、もし謝罪として今できることを考えるなら、我が家のご近所に頭を下げて歩いてください。「大変な恐怖を与えて申し訳なかった。私の息子は刑務所に入っているので、今は安全です」と言って、一軒一軒ご近所を回って歩いてください
主人は、お金の大切さを、しっかり理解している人間でした。
これから、子どもたちの教育費がかさむから、少しでも貯金しなくてはならないから、と言っていつも節約に取り組んでいました。
我が家でのささやかな晩酌の時、彼は大好きなビールをやめて、発泡酒に換えました。「ビールは美味しいから、美味しいと、つい、たくさん飲んでしまうから」そう言って、倹約のために発泡酒を飲んでいました。今、我が家には、誰も飲まない発泡酒が積まれています。
旅行に行くときも、いつも同じ服を着ていました。写真で見ると、「全部同じ服装だから、いつの写真かわからないね」と笑ったものです。中学２年になる娘は、今、古くなったお父さんの服を大事に着ています。おしゃれに敏感な年頃です。仲間はみな、服装にもいろいろ気を配る年頃です。同級生に「おまえ、変なカッコウしているな」と言われて、「いいもん。これ、お父さんの服なんだから」と胸を張って答えると、からかった同級生は「ごめんな」と言って謝りました。
我が家の家計だけではなく、会社の出張でさえも、会社の負担を少なくするために、早朝出かけ夜中に帰宅するスケジュールを組み、自分の生活時間を削っても、出張費を節約する人でした。
その主人が、沢田被告、緒方被告、齋藤被告、あなたたちのような、お金の感覚を持たない人間に、１回１０万円のアルバイトで殺されてしまうなんて、あまりにもむごすぎます。
長女は言います。「お母さん、不公平だよね。真面目に頑張って来たお父さんが、いい加減に生きてきた奴らに殺されて。犯人たちは、お父さんを殺したアルバイトのお金ももらって、捕まったって、何ひとつなくしたものはないんでしょう。これからだって親とも会えるし、仕事だってできるなんて、ひどいよね、あまりにも不公平すぎるよね。
うちは何もかも無くなっちゃったのに。お父さんが稼いで来るお金もなくなって、
家族の夢も幸せも全部なくなったのに。
私には、大好きなお父さんがいなくなっちゃったのに、どんなに呼んでもお父さんに会えないのに。不公平すぎるよね」
沢田被告、緒方被告、齋藤被告、この３人の若者の暴行によって、主人の夢は志半ばで壊されました。
主人は商社マンとして働き、貿易の仕事が好きでした。外国に行き、日本の地方に行き、そこで暮らす人たちを自分の力で結び付けたい、世界はひとつで、人間は皆同じであること、がんばる皆の可能性は大きいことを伝えたい、といつも言っていました。「生まれ変わっても商社マンになるんだ」と彼は言っていました。
「日本の林業を本当に考えているのは、ニチメンの近藤さんしかいない」と言われるほど、主人は、林業を愛していました。林業の現場で汗水流して働くことが好きでした。山を愛し、仕事を愛する山の男たちと一緒に仕事をするのが好きでした。「あの会社の社長は中学しか出ていないのに、本当に仕事ができる人だよ。ああいうのが本当に仕事のプロって言うんだよ。僕ももっと勉強しなくちゃ」と素敵な現場の人たちの話をしていました。仕事のプロになる手前で、彼の人生はブツッと音をたてて断たれてしまいました。
昨年、子どもと山の木に仕掛けたカブトムシの仕掛けをこの夏、一緒にとりに行くのを楽しみにしていました。主人のこんなささやかな子どもとの時間もかなわなくなりました。
娘は、お父さんと車に乗りながら、クイズを出したり、しりとりをしたりする時間が大好きでした。ずっと勉強を教えてくれるから、受験やテストで１度くらい失敗しても、どうってことないよ、ずっと支えてくれるって言っていたのに。優しいお父さんに見守られているからどんなことがあっても頑張れると言う娘の夢はかなわなくなりました。
新しいグローブを買って、休みができたらお父さんと野球をしようと言う息子の小さな夢もかないませんでした。息子の新しいグローブは、お父さんの遺影の前に、置かれたままです。
主人が建ててくれた家で、皆で仲良く暮らしたいという両親のささやかな夢さえも壊されました。高齢の両親や親族は、若い主人が殺されてしまってから、年老いた自分たちのほうが生きて残っていることに申し訳なささえ感じて、辛い日々を生きています。
田舎のご両親は、日本各地で、世界の国々で活躍する息子を心から誇りに思っていました。お正月やお盆の短い時間でも、田舎に帰り、お母さんの手料理を「上手しい、上手しい」と食べながら、仕事の話をする息子と、元気な孫たちと過ごす賑やかな時間を大切にしていました。末永く、温かい家族でありたいという、あたりまえの夢も打ち砕かれました。
ずっと休むことなく働いてきたから、子どもたちがもう少し大きくなったら、２人で映画を見たり、旅行に行ったり、自分たちのために時間を使おう。と言っていた夫婦の夢もなくなりました。
沢田被告、緒方被告、齋藤被告に主人を殺され、私たちの家族は全てを失いました。家族の幸せ、家族の夢、これまでご近所と長い時間かけて築いてきた安心で住みやすい町、何もかもを失ってしまいました。
全てを無くしてしまった私たち家族が、今回、新しく得た物が、ひとつあります。それは心から犯人たちを憎む気持ちです。家族誰もが、生まれて初めて抱いた、この、人を憎む気持ちを、心の底から人間を憎いと思う気持ちを、どのように扱って良いかわからず、家族、皆が、苦しくて、苦しくて、息が詰まる思いをしています。
主人のお母さんは、犯罪を犯した若者を更正するための仕事をする「更正保護女性会」という団体の理事として活動していました。しかし、自分の息子が殺され、被害者となって、犯罪を犯した若者が更正するなんてきれいごとだと思うようになったと言います。万一、本当に更生して謝ってもらっても、被害者の命は二度と戻って来ないことを切実に感じ、お母さんは、この仕事を辞めました。「お金で犯罪を担った若者を、二度と社会に出さない罪にしてもらいたい」人間としての優しい愛情と正義感に溢れるお母さんが、泣きながら懇願しています。
裁判長様、並びに２名の裁判官様。
１０万円の報酬をもらえる仕事が魅力的だったから、と自分たちの利己的な思いを達成するために、何も悪い事をしていない近藤浩の大切な人生を奪い、私たち家族のすべての夢を奪い、夫の実家の家族に壮絶な苦しみを与えた沢田、緒方、齋藤を絶対に許さないでください。
齋藤被告、緒方被告、沢田被告のような若者は、今の日本に大勢います。万が一彼らの罪が軽いと知ったら、少年たち皆がまねします。
「数人で集まって一人に暴力を加えたけれど、ぼくは言われたことをやっただけだから罪は軽いさ」
「金貰って殺人に加わったけれど、殺人計画だったと知らなかったんだから大丈夫」
「死んでしまうと分かっても、そんなこと知らなかったと言えば罪が軽くなる」
「いいんだよ。死ぬ時にそこにいなければ殺人罪にはならないんだ」
そんな次の若者たちを排出しないためにも、３人の被告に重い、重い刑を下してください。
彼らはもう大人です。自分の意思で、１０万円という報酬の犯罪アルバイトを選んだのです。ぐるぐる巻きにした被害者が、苦しがり、つらそうな呼吸をしているのを知り、このままでは死んでしまうと分かりながら、放置したのです。そして、見つからなければラッキー、ぼくたちは大丈夫、と笑って過ごしていたのです。彼らには未だに反省の気持ちもないのです。
初犯だから、殺人の計画は知らされていなかったから、近藤浩が死んだ時、帰ってしまっていたから、そんな理由で、普通の暴行事件と同じにしないでください。
これで、もし、この３人の若者の罪が軽いと国が判断してしまったら、これからの少年犯罪はみんな彼らのまねをします。万が一彼らが軽い罪で許されてしまったら、小額の報酬で、アルバイトで殺人を請け負う「普通に見える」若者を、どんどん増殖させてしまうことになります。世の中から、若者の犯罪をなくすためにも、どうか、法律の許す限りの重い罰を彼らに与えてください。
せめて、せめて、彼らが本当に心から反省し、自分の残りの人生をひたすら「人のためになることに使う」ことだけを考える人間になるまで、どうぞ、社会にださないでください。彼らに、長い、苦しい、反省の時間を与えてください。
この事件は大変多くの方が見守っています。殺人を頼んだ方も、頼まれて動いた方も重罪だと皆話しています。決して許されることのない殺人だと誰もが言います。
多くの若者に仕事がない状況なのですから、若者は手軽なアルバイトとして殺人を選んでしまう所にまで、今の社会が来ているのです。アルバイトで犯罪を犯すことは絶対に許さないということを断固示す刑罰をお願いいたします。
この事件を見守っている多くの子どもたちに伝えたい。「人の命は何よりも大事です。頼まれたからやった、よく分らなかったからやった、では済まないのです。命を大事に考えない人間には、必ず大きな罰が待っているから、自分勝手な犯人は本当に重い罪になりました。だから、安心して真面目にしっかり勉強するのよ。きっと大人たちがいい社会を作っていくから」と言ってあげられるように、法の許す限りの重刑に処してください。お願いいたします。
主人、近藤浩は「こつこつ努力する人間が、最終的には幸せになれるんだ」といつも子どもたちに話して聞かせていました。主人は間違っていないということを、子どもたちに、この判決で見せてください。子どもたちが大人を信じて、地道に努力していける社会を築いていくために。心からお願いいたします。ありがとうございました。
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